朝は晴れていたが昼前から少し曇りはじめた空。最初はサイクリングと思っていたが、朝の犬の散歩で感じた冷た過ぎる風に挫け、バイクで出かけることにした。行き先は昨晩決めていた。東京町田市にある旧白洲邸の「武相荘」。
明治に生まれ、大正昭和平成を夫婦して自分が愛するものを大切にして生きた、在野の政治家・事業家の白州次郎と作家の白洲正子。二人は共に留学の経験があるゆえ欧米の文化にも馴染み、同じ視点で日本の古来の文化にも興味を持ち、共に気に入った物を愛して身の回りに置き、ここ、かつて日本の原風景であった町田の鶴川に茅葺きの家を購入して、愛すべき生活空間を作り上げた。その家がかつてのままで見ることができた。周りはここ二十年ほどで開発されたであろう新興住宅街であったが、二人が住んでいた頃はきっと野原の広がる自然の中に佇む一軒家だったのではないだろうか。
正子が好きな瀬戸もの器と次郎が愛用したボトルを切断して作ったウィスキーグラスの同居、正子のお気に入りの着物と次郎の使ったゴルフクラブの同居などなど。それらはジャンル、嗜好が違えど二人が愛したものであることにより、全てのものは繋がり、何故か人を優しい気持ちにさせる目に見えない力で、家の中に調和を作り出していた。私は静かに感動し、今はもう見かけなくなった古い日本人が持っていた、慎ましく大切に時を過ごす人生の姿勢に郷愁を感じ、それをとても愛しく思った。