東京の開花宣言直前に桜を観ようと今日はサイクリング。暖かいけど走ると風が少し冷たく感じる。今日走るコースは川辺の道をつなぎ合わせた川沿いコース。川沿いの道は信号も少なく、走りやすくて意外といいのだ。そして、日本人はみんな桜が大好きだから、町を流れる川沿いには必ずと言っていいほど桜が植えられている。いろんな種類の桜が植えられているから、きっともう咲いてる桜もあるはずだ。
先ずはのんびりと平瀬川。ありました! 大きな桜の木。やっぱりいいな、一年ぶりの桜。この歳になると、あと何回、桜を見ることができるんだろう、などといらぬことを考えてしまう。桜の種類は分からなかった。溝の口にて二ヶ領用水沿いへと道を変えた。ありました! 咲いてる桜が。近くで地植えの花のお世話をしていたおばさんに聞くと、この桜は早桜の河津桜でした。少し葉が出始め、花びらの色味が濃くなったとのこと。後ろには大きな梨園が広がっていました。川崎名物の梨です。二ヶ領用水沿いでは三連休の初日を近所で楽しもうとしているのか、それとも花見の誘惑に堪えられずに外に出てきたのか、家族連れの散策する姿を多く見かけました。実際、まだ咲いてはいないものの、二ヶ領用水沿いには桜の木はいっぱいありました。また、桜だけでなく、上品な色濃いもも色の桃の花が満開でたくさん咲いている流域もあり、そこには満開の白い桃の花もありました。私は白い桃の花があることをはじめて知りました。また、梅と桜の開花時期のあいだに桃の花が咲くことを知りました。私の家の庭には、さくらんぼの花が今咲いており、これで〈梅、桃とさくらんぼ、桜〉という順に春が来るということがわかりました。桃の花が咲く時期には、蕗の花も咲きます。
次は丸子橋で川を渡って丸子川沿いを北上だ、と思い多摩川を渡ると、何やら立派な大きな石碑と風にたなびくのぼり旗が目に入ってきた。4メートルはありそうな石碑には「多摩川治水記念碑」と彫られている。多摩川は大きな河川だけに、これまでに幾つもの人間との格闘があったんだろうな、そして農業用水として役立たせてもらって、長い歴史の中で多摩川には感謝、ありがたきかな。のぼり旗の方に目をやると、「田園調布浅間神社」と書かれていた。高台にあるらしく、目前には石の階段、そして上方に鳥居がある。何やら歴史を感じさせる威厳ある存在。自転車を止め、拝観開始。社殿に着くと、正式な名前は「多摩川浅間神社」のようだ。「田園調布」という言葉に弱いのかな。鎌倉時代に創健されたようで、由緒ある冨士浅間神社の系列だ。きれいな着物姿をしたお母さんの赤ちゃんのお宮参りにも出くわした。そして驚いたことに、社殿はなんと古墳の上に建っているというではないか。東急線を挟んである多摩川台公園の延長線上に神社はあり、その多摩川台公園はなんと10個の古墳がある丘陵地。自転車に跨って公園に移動。前方後円墳の宝莱山古墳と亀甲山(かめのこやま)古墳はどちらも大きくて、後者は発掘もまだされたことがないようで、これから先が楽しみなロマンの台地です。公園内には古墳展示室なる立派な建物もあり、この一帯の古墳群の説明展示がされており、勉強にもなって無料でこんなに楽しませてもらってよいのかしらと思ってしまった。野毛の方にも古墳群があるようで、邪馬台国の時代、多摩川流域は神秘的なエナジーを感じ取れる場所だったんだろうなぁ。
古墳の公園をあとにして、当初の予定通り丸子川沿いを北上した。途中にある照善寺、八幡神社にも立ち寄り、東京都市大学前では卒業式を終えたばかりの学生達にも出くわした。女子の袴姿、これも春との出会いだ。今回のコースの最後は五島美術館と決めていた。もうすぐだなと思っていたところで、とても大きな寺を発見。そのまま通過する訳にはいかない。山門への階段へ近付こうとすると、3メートルはある剣をもった人の石像、そして象、ヒツジ、獅子など2メートルもある動物の石像らが道の両脇から凄んでくる。山門に近付くと、そこは「善養密寺」という寺であることが分かった。聞いたことはない。山門の傍には猛虎と童子の異様な石像が睨みをきかせている。入ると、5色の旗が風にはためいている。古代仏教の象徴的な色なんだろうか? 本堂の前には大日如来像がで〜んと座っている。その前には大きなカヤの木。樹齢700年とも800年とも言われている、東京都が指定の天然記念物のようだ。その木のふもとには、「たま坊」というカッパと「たま姫」という亀、そしてカエル、ホトトギスとすべて石像がいっぱい鎮座している。こんなお寺、今までに見たことがない。調べると真言宗派で有名なお寺のようだ。常識に囚われない不思議パワーをかもし出す、とても魅力的なお寺に見えてきた。私が訪れてから、ひっきりなしにお墓詣りの人が往き来している。奥に墓地があるようだ。そうか、今日はお彼岸だ。これも春の出会いだ。このあとお参りをすませた私は、いつの間にやら不思議パワーに魅了され、一気にこのお寺のファンになり、知らぬ間に御守り二つ、お札一枚、銘菓である「大榧(おおかや)饅頭」を買ってしまっていた。しかし、今も後悔は一切ありません。いいお寺さんと出会えて幸せです。
後ろ髪を引かれる思いで善養寺をあとにした私は丸子川を離れ、最後の急坂を上って五島美術館にたどり着いた。東急グループの創始者、後藤慶太が蒐集したコレクションを基にした美術館だ。今回は「中国の陶芸展」。陶芸は知識も無いのであまり説明も読まず、素直にそれぞれの陶芸と面会しました。美術館のスタッフが庭のしだれ桜が満開です、という言葉に誘われ、庭を歩くと、なんとこの庭の中にも古墳があった。何度か来た美術館、初めて古墳の存在を知った。「稲荷丸古墳」と書かれており、先ほどの古墳群はここまで続いているのだと感心した。多摩川の神秘エナジーは凄いのだ。庭の散策を続けると、ここにも仏様以外に、ヒツジや猿、獅子らしき石像が多くあり、先の善養寺とオーバーラップした。善養寺の力がここにまできっと通底しているのだ。
今回のサイクリングは実に充実した旅だった。半日にして、こんなに色んなものと出会うサイクリングはそうはないものだ。ほんとうに楽しかった。お願いだ、善養寺よ、夢の中にも出て来てくれ。